作品概要
『越後つついし親不知』(えちごつついしおやしらず)は、1962年(昭和37年)に発表された水上勉(みずかみ つとむ)の小説。
雪深い越後の寒村で、京都伏見の酒蔵へ出稼ぎに出た夫を待つ若妻に起こった悲劇を描く。水上勉の傑作のひとつといわれる。
舞台となったのは越後親不知(作中では「歌合」という村名だが、「歌谷」という実在する部落名をもじったものだという)。
なお本作は今井正監督により映画化され、1964年東映映画として公開されている。
あらずじ
支那事変が勃発した昭和12年、越後の山奥深く、わずか17戸しかない陸の孤島のような貧しい谷間の村。権助と留吉は冬になると京都伏見の造り酒屋に出稼ぎに出ていた。遊び好きの権助に対し留吉は真面目一辺倒の男。
そんな12月のある日、母が危篤との知らせで帰郷した権助は道で留吉の若妻おしんに出会い欲情し強姦するのであった。おしんは、後ろめたさを抱えてしまう。年が明け3月に留吉が戻って来る頃、おしんは妊娠してしまったことに気付くのだが・・・。
読後感
作者の水上勉は北陸の福井県大飯郡本郷村(現おおい町)岡田集落の生まれ。水上は北陸の風土を愛し、氏の多くの作品の舞台となっている。
「越後親不知」や「筒石」周辺は嶮岨な越路でもとりわけ難所とされる過酷な風土、そんな場所でひとにぎりの隣人と交わりながら、生きて愛するあまり死を招かざるを得ないという悲劇的な閉塞感が描かれる。
本作は水上の創作ではあるが、当時の貧村では、物語にならないような悲喜こもごもな出来事があり、人知れず死んでいった名もない人々が沢山いたのだろう。
新潟の厳しい冬を知る身にとって、物語の暗さと相まって、何とも居たたまれない重苦しさに苛まれる。
親不知子不知‐北アルプスが日本海に没入する断崖の果て。
明治の初めに岸壁を削って道が出来る前までは、旅人は岸壁が続く海岸の波打ち際を命がけで通行したという過酷な難所。