甚句とは?
「甚句」とは日本の伝統的な歌謡形式の一つ(七七七五調)で、江戸初期に起こり江戸末期には流行歌として広まった。
甚句と名のつく民謡は日本各地にあり、新潟県内では「新潟甚句」「長岡甚句」「両津甚句」などがその代表的なものである。
甚句は地域の祭りや盆踊りには欠かせない唄として各地で親しまれ、後世に歌い継がれている。
村上甚句と村上大祭
村上甚句を語るとき、村上のお祭り「村上大祭」を避けることはできない。
その始まりは、江戸時代初期、寛永10年(1633年)に、当時の村上藩主・堀直竒侯が
「西奈彌羽黒神社を城から見下ろすのは畏れ多い」
として、神社を山城・村上城を載せる臥牛山の中腹にあった神社を現在の場所へ移し、それをお祝いして大町の人たちが大八車に太鼓を積んで街中を練り歩いたのがおこりといわれている。
祭りは御神霊を奉遷した3基の神輿を先頭に、荒馬14騎、稚児行列、そして19の「おしゃぎり」という、村上の伝統産業である彫刻や漆塗りなどが施された、豪華絢爛な19台の屋台行列が町内を練り歩く。
夜には提灯の灯りをまとった屋台がにぎやかなお囃子の音とともにゆらゆら揺れながら町を練り歩く。その様は大変情緒があり、幻想的でもある。
江戸時代から続く村上大祭では、おしゃぎりを引き回す時に、この村上甚句が唄われる。
村上の祭りに粋な彩りを与える、村上甚句は欠かすことのできない大切な要素である。
村上甚句の歌詞
参照(このサイトより引用):https://mapps.gsi.go.jp/contentsImageDisplay.do?specificationId=32399&isDetail=true
https://www.google.co.jp/maps/@38.2387452,139.4841683,12624m/data=!3m1!1e3?hl=ja
越後国の北の外れ、海、山、川に囲まれた城下・村上。
新潟方面から北上し、山間を抜けて村上の市街地に入った瞬間、
えも言われぬ閉塞感に襲われる。
冬の寒風、風雪は厳しく、重苦しさを感じる程でもある。
そんな風土の中で、数百年の歴史を重ね、この城下町独特な文化、風習を育んできた。
村上甚句では、この町の情景、名所名跡、町人堅気、ユーモア、悲哀、人生訓などを題材に、村上昔ながらの生活の様子や気質が伺われ、興味深い。
なお村上甚句は「五七七五」調で、謡い方は、歌詞の前節を独唱し、後節を全員で斉唱する。
町の情景
〽 三面川 水晶のような流れ 玉の瀬の音さらさらと
〽 三面川 宝の蔵よ あれを見やんせ 鮭の群
参照(このサイトより引用):https://www.sake3.com/mukashinomukashi/
参照(このサイトより引用):https://www.sake3.com/spot/212
※三面川:新潟県の北部、朝日連峰に源を発し、いくつもの支流を集め、城下町の北を蕩蕩として流れる。村上人の心の拠所、母なる川。
〽 羽黒様から お滝様見れば 出舟入舟 帆掛け舟
〽 城山から 大川みれば 流れまかせのいかだ乗り
〽 城山から 川口見れば お滝不動 鉄の橋
〽 城山から 下見下ろせば 茶摘み桑摘みたのしげに
〽 (せめて)すずめの 片羽欲しや 飛んで行きたや お滝様
〽 どんどうと(どんどこやあと) 鳴る瀬は何処よ あれは瀬波の お滝様
※「お滝様」:村上甚句に度々登場する名前。三面川の河口右岸にある式内社「多岐神社(たきじんじゃ)」のこと。すぐ近くに小さな滝があることもあり、地元では「お滝様」と呼んでいます。文献から1,100年前にはあったことが分かっており、古くから漁を営む人達の信仰が厚い神社である。
〽 下渡山に お振り袖着せて 奈良の大仏様婿にとる
※下渡山:三面川の北のほとり、村上市街南東に立つ臥牛山と向かい合う山。村上市街の至る所から仰ぎ見ることができる。まるで振り袖を着た人が深々とお辞儀をしていうように見える。
〽 村上 色香の町よ 堆朱堆黒 茶の香り
〽 村上だよ 良い茶の出どこ ならび鮭川 山辺里織り
〽 村上は 良い茶の出どこ 娘やりたやお茶摘みに
〽 揉めや揉め 揉まねばならぬ 揉めば茶となるお茶となる
※村上茶:村上は自園の茶を製し、茶舗を営むことを可能にした北限の地であることから、「北限の茶処」とも呼ばれている。この「北限の茶処」は、日照時間のかかわりで渋味少なく、まろやかな独特の風味を持ち、広く人々に親しまれている。
(参照:http://murakami21.jp/i2001no13/murakamitya.htm)
〽 村上は良い茶の出処で 上れば蒲萄の蒲萄岳下れば松山温泉場 並び鮭川山辺里織り
町人の粋・ユーモア
〽 鍛冶町から 鍾馗さま出ても イヤ肴町通いは止められぬ
〽 山辺里の橋 真ん中から折れた 今にどの橋渡ろやら
※山辺里の橋:木製だった旧「山辺里橋」。こんなに乗っちゃ折れちゃうよねw
〽 〇〇衆にゃ 限るではないが いやお酒の呑む人 どなたでも
〽 〇〇衆に 限るではないが イヤお金のあるひと どなたでも
〽 お前さんに 限るではないが イヤ お金のあるひと どなたでも
〽 下がりの藤 手は届けども 人の花なら見たばかり
〽 しょったれかか なべでけっつ股あろた イヤいけとっつあたまげて おはちでふんどしあろた
※これは強烈!
※「しょったれ」とは、「だらしない」「みっともない」を意味する方言。
※「なべでけつ股あろた」とは、「鍋で尻股を洗った」の意味。
〽 鷺(さぎ)の首 べらぼのように長うて イヤおまえさんと寝た夜の 短さよ
〽 花のようなる 宝光寺様に 朝日さすまで 寝てみたや
〽 惚れて見るせいか 乱れし髪も 金の瓔珞(ようらく)下げたようだ
※瓔珞(ようらく):菩薩や密教の仏の装身具、または仏堂・仏壇の荘厳具のひとつ
〽 盆も過ぎれば 十五夜も過ぎる 露に放れたきりぎりす
〽 三日月様 何故細々と 細いはずだよ やみあがり
〽 ならべておいて たてじまきせて どれがあねちゃやら おばちゃやら
〽 むすめ 島田に(島田まげ) 蝶々が止まる 止まるはずだよ 花だもの
〽 現れまして 首渡しょとも(三度の食 二度食べようとも) イヤしかけた間男 止められぬ
〽 思うて通えば 千里も一里 逢はで戻ればまた千里
〽 お前様に 七分通り惚れた あとの三分は想うてくれ
〽 白と黒との 碁盤の上で せきを争う浜千鳥
〽 例え(胸に) 千把ャの 萱焚くとても 煙ださねば 人知らぬ
〽 どうでもしやんせ どうにでもなる私 お前任せたこの身
〽 縄帯締めて 腰には矢立 瀬波通いは止められぬ
〽 出せ出せ 出さねば破る 娘出さねば 壁破る
〽 出せとは俺から言わぬ お前こころにあればこそ
町人心の機微
〽 鯉の滝のぼり 何と云うてのぼる つらいつらいと云うてのぼる
〽 あまりつらさに 出て山見れば 雲のかからぬ山はない
〽 唄えと 責めたてられた 唄が出ないで 汗がでる
〽 お寺の前で 音頭取ったおなご 年は若いが(わかいども)唄上手
〽 踊らば 今夜限り 明日の晩から 踊りゃせぬ
〽 躍ろうば 今夜だに踊れ 明日の晩から 躍られぬ
〽 月は傾く東は白む 踊り連中も ちらほらと
〽 お前さんに 何言われたとても 水に浮き草根に持たぬ
〽 来るかやと 上下ながめ 川原柳の 音ばかり
〽 (こころ)せけども 今この身では 時節待つより他はない
〽 こぼれ松 手でかきよせて お前来るかと 焚いて待つ
〽 親の意見と なすびの花は 百に一つも 無駄はない
〽 大仏様 横抱きにして お乳呑ませた親みたや
〽 (主と)別れて 松の下通れば 松の露やら 涙やら
〽 和尚様に帯買うてもろた イヤ品がようて柄がようて勿体のうて締められぬ
〽 寝むられないと 夜中さなかに起きて 人目忍んで 神頼み
〽 面白うて 足が地に着かぬ イヤお狐コンコンでもついたか見てくれ 頼む(とのさ)
〽 面白うて 足が地に着かぬ イヤお狐コンコンでもついたろうか(ついたやら)
お色気
〽 むすめ 十六七 抱き頃寝頃 イヤおっちょこちょいとまくれば 会わせ頃
〽 むすめ 十六七 渡し場の船よ 早く乗ってくりゃんせ 水が出る
〽 もっくらがして 親衆に見せた 親衆ぶったまげて 嫁捜す
〽 もっともだよ 御行様さえも おやま掛け掛け めろめろと(ねろねろと)
〽 どんぶり鉢 落とせば割れる 娘島田は寝て割れる
※島田髷(しまだまげ):日本髪の代表的な髪形。 前髪と 髱 たぼ を突き出させて、まげを前後に長く大きく結ったもの。 主に未婚女性が結う。
現代に伝わる貴重な文化として後世に伝えていきたい日本人の心の故郷がここに見える。
これが「正調・村上甚句」だ!